『大相撲殺人事件』 (文春文庫)📖🧐

豆知識

作品紹介

由緒ある歴史を誇る相撲部屋・千代楽部屋を訪れたアメリカの青年・マーク。ひょんなことから力士となるべく部屋住みの身となった彼だったが、そんな彼を待っていたのは相撲界に吹き荒れる殺戮の嵐!立ち会った瞬間爆発する力士の身体、頭のない前頭の惨殺死体、連日順々に殺されていく対戦力士、女性が上がれないはずの土俵上に生じた密室状態、身体のパーツを集めるかのごとく発生する連続殺人、洋館に集まった力士たちを襲う見立て殺人…。マークの名推理が土俵の上に冴えわたる!新本格の旗手が贈る超変格ミステリ登場。

登場人物

  • マーク・ハイダウェイ

アメリカ人の青年。本作の探偵役。
本来は日本の大学を受験するために来日したのだが、大学と相撲部屋を間違えて、うっかり相撲部屋に入門してしまう。四股名は「幕之虎」

  • 崎守聡子

マークが入門した相撲部屋の親方の一人娘。女子高生。本作のワトソン役。マークが中盤からフェードアウトしてしまうため、実質的な主人公と言ってもいい。話が進むに連れ、力士の死に対する反応が軽くなっていく。

  • 御前山

マークの入門した部屋の先輩力士だが、万年幕下でリストラ候補に挙げられている弱小力士。
日々相撲の必殺技を(頭の中で)構想しているミステリーマニア。事件状況の分析などは的確。

概要

  • 第一話 土俵爆殺事件

ひょんなことなら大相撲の千代楽部屋に入門することになったマーク。
彼が聡子らと一緒にテレビで相撲中継を見ていると、千代楽部屋の兄弟子の取り組み中、土俵上で爆発が起きて対戦相手が爆殺されてしまう。

  • 第二話 頭のない前頭

正式に千代楽部屋に所属することになったマーク。
ある日の稽古中、兄弟子の一人が風呂場で首を切断された遺体で発見された。
状況から、アリバイのない風呂焚き役をしていた力士に疑いがかかるが……

  • 第三話 対戦力士連続殺人事件

兄弟子殺害事件などまるでなかったかのように初土俵を踏み、怒涛の快進撃で一年余りで人気力士となった幕之虎ことマーク。一方聡子は、最近身辺にストーカーらしき気配を感じていた。
そんな中で迎えた夏場所で、マークとの対戦が予定されていた力士が次々と殺されていく。

  • 第四話 女人禁制の密室

首都移転先の候補地であるD県に建てられた新・国技館に、温泉目当てにやってきた聡子と、負け越しが決定したため渋々付き添いで来させられた御前山。新・国技館前で、女性知事らが「土俵に女性を上げてはいけない」という相撲界の旧弊に抗議している場面に出くわす。彼女らと一緒にこっそり館内に入った聡子は、土俵の上で清めの儀式をしていた神官が殺害されているのを発見する。

  • 第五話 最強力士アゾート

またしても力士連続殺人事件が発生被害者らはそれぞれの得意技を使うときに主に使う体の部位を切断されており、「犯人は角界で最強のパーツを集めて組み立て、最強の力士を作ろうとしている」
と推理する御前山。そんな中、龍悦部屋から合同稽古合宿の誘いがあり、マークたちは旅館に向かうが…

  • 第六話 黒相撲館の殺人


山中で道に迷い、とある洋館に迷い込んだ千代楽部屋の一行。そこには力士のような体格をした主人と、力士のような体格をした執事がいた。どうか想像してほしい。山奥の不気味な洋館に力士ばかりが集まって、これから事件が起きそうな感じの光景を。館の主人は、一行に封印された相撲史の闇、黒相撲と黒力士について語る。その晩、まるで一行の殺害を予告するかのような詩が書かれているのが発見され、その詩に見立てるように次々と力士たちがあるものは鎧を着せられ、あるものは犬神家メソッドで犠牲となっていく……

アニヲタWiki(仮)

感想

確かにあらすじは衝撃的でぶっ飛んでいる。ただ解説にあるようにこれが「本格魂」のなせるわざだとしても、個人的にはその肝心の「本格」の部分がいささか弱く感じられ中途半端な読後感となった。仮に本格推理であることを言い訳にナンセンスに徹せる状況を整えたのであればナンセンスにとことん徹してほしい。あらすじは衝撃的だがキャラクターや会話が弱く淡泊であり少し勿体なく感じられた(そこにシニカルな面白さが感じられもするが)。書き手がナンセンスなど意識せず大真面目にこの作品に向き合っていたならば、逆にそれは驚愕に値する。読者には想像もつかないほど単純なトリックでばったばったと力士が死んでゆく。最終的には幕内力士の半分くらい死んでいるんじゃないかな。「対戦力士連続殺害事件」なんて息つく暇もなく殺人が起こってしまう。しかも奇妙な動機が多く、連続殺人と女人禁制の密室の犯人の動機なんて下手したらリベラルからの豪快な非難に晒されかねない。称賛も非難もどちらも待ち構えている作品で、その単純さに肩透かしを食らう人もいればひねりのなさに感動する人もいるかもしれない。小森健太朗といえば『ローウェル城の密室』と『コミケ殺人事件』だけどその二作ほどのインパクトはなかったが、これはまさしく本格。初心者よりは本格が好きな人向けかもしれない。

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