各地の闘牛の由来
日本各地の闘牛にはそれぞれ由来(歴史的背景)が伝承されている。隠岐の「牛突き」は、承久3年、隠岐・中ノ島に配流された後鳥羽上皇を慰めるために始まったといわれ、西郷町はこれを起源としている。隠岐の五箇村は「一夜ケ嶽神社」の、都万村は「檀鏡神社」の、いずれも奉納行事として古くから大会が開催され、今に伝えられている。新潟県小千谷市、同山古志村の場合は、山間村郷の春の祭りの伝統行事であり、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』にも登場する。塩を牛の背に乗せ北上山地を越えて盛岡方面に運んでいた江戸時代、先頭に立つ牛を決めるため牛を突き合わせたのが始まりである、とするのは岩手県山形村。鹿児島県の徳之島(徳之島町、天城町、伊仙町)では、江戸時代から全島の闘牛大会が行われていたことが『南島誌』に記載され、砂糖地獄に苦しむ農民が税の完納を祝って開催した島民唯一の娯楽であるとしている。沖縄県は全島的に闘牛が盛んで、具志川市は、1400年代に始まり、娯楽形態としたのは明治中期であるとし、石川市もほぼ同じであるが、戦後の闘牛復活の地は石川市であるという。
大会出場と給金
人間の相撲と同様、前頭から横綱まで番付がある。相撲の場合、横綱と前頭が対戦して前頭が勝つ、ということもあるが、闘牛ではありえない。横綱は横綱、大関は大関、同じ格付けで闘う。もし仮に横綱と前頭を対戦させたとしても勝負にならない。闘牛は八百長なしの真剣勝負の世界なのである。勝ち方、敗け方にもよるが、一度出場すると、次回出場までは一定の休養期間が置かれ、手ひどい敗け方をすると、長期間にわたり出場が見合わされる。敗けを続けたり、再起不能の痛手を受けた場合は廃牛となる。1千万円もの高額で購入した名牛が、一瞬にして廃牛に転落ということもありうる。
闘牛は残酷、という声もあるが、闘うのは本能の命ずるところであり、年に何回か出場するだけで、ふだんはのんびり暮らす。しかも、善戦する限りは長生きできるのであるから、牛としては恵まれているともいえよう。相撲には賞金が出るが、闘牛では「給金」とよばれるファイトマネーが支給される。全国的に金額はまちまちであるが、宇和島は比較的安く、しかも敗けた方の牛に多く支払われる。勝牛4割、負牛6割と決まっているが、これには敗けた方の牛主に対する慰めの意味があり、宇和島ならではのうるわしき伝統である。
牛についてのいろいろ
勢子
牛に寄り添い牛を操る、勝利に導くために介助する、こういう者のことを勢子と呼ぶ。勢子の形態は各地で異なり、牛1頭に1人、交代なしというのが隠岐。新潟では勝負をつけず、引き分けにし、この理由は闘牛がこの地方では神事であるためだが、引き分けが前提のため、勢子は一頭の牛に13人まで同時につくことができ、牛を分ける際の人間対牛の攻防がみものとなる。牛1頭に勢子1人を原則とし、勢子が次々と交代するのは宇和島、徳之島、沖縄である。勢子は闘牛に欠かせないものであり、危険と隣り合わせの「仕掛け人」である。
飼育と訓練
牛は農耕用に使役されることはない。牛は酪農牛を除いては、食用である。闘牛用の牛も同じ和牛であるが、去勢していない牡牛で、牛の中のエリートといえよう。子牛選びの段階でふるいにかけられ、さらに毎日のトレーニングで強い牛へと成長する。日々、歩かせて足腰を鍛える。歩行運動の途中、土の露出した山の斜面に連れて行くと、牛は斜面を角で突く。首・肩の筋力トレーニングであり、角さばきや首・肩の受け返し等、技の訓練でもある。
飼料も重要で、細心の注意のもとに適量を与える。出場前には、飼育者それぞれが工夫した特別食が与えられる。数日前からは減食させ、牛舎から出さず、これによって闘争心をかき立てることもあり、直前には生卵、マムシ酒、焼酎、緑茶、ビール、特製ジュース等を飲ませて興奮をあおることもある。
鼻綱
最初から鼻綱なしで格闘させるならわしは新潟、宇和島である。調子が出てきた頃を見計らって鼻綱を切るのが徳之島、沖縄。最後まで鼻綱を付けたままという例外的なやり方は隠岐で、後鳥羽上皇にご覧いただく際の危険防止策の名残りであるとも伝えられる。
角の矯正
闘牛の武器である角。隠岐では古来より、子牛の頃から角の先端に開けた穴に針金を通し、内側に曲げることで攻撃力を高める工夫が行われ、引き分けを前提とする新潟では自然のままとしている。手を加えても牛の角は各牛で異なり、宇和島地方ではその形状によって「タチケン」「ノケ」「マルマゲ」「カゴ」などと呼んでいるが、角の形状も各地の牛主の要求によって変わる。
また、肥育技術の向上によって牛が年々大型化し、1トンを超える牛が珍しくなくなり、宇和島市営闘牛場は平成3年に土俵直径を16mから20mに拡張したが、角にしても体躯にしても、近年かなりの変化を見せている。
牛の年齢
年齢は歯で数える。牛には前歯が下顎部にしかなく、2歳頃までは乳歯が8本揃っており、加齢とともに2本ずつ抜ける。すなわち、2歳…乳歯8本「マルクチ」、3歳…6本「ムコウギリ」、4歳…4本「カミワケ」、5歳…2本「ワキイチ」、6歳…0本(永久歯となる)「コババライ」、というように判別される。闘牛の現役年齢はおおむね3歳から10数歳であるが、7~8歳が最円熟期である。
飼育者と牛の名前
飼育者(牛主)の職業は、農業や畜産業はもちろん、漁業、水産養殖業、建設業、運送業、飲食業、会社員等々、さまざまである。自ら直接飼育している者、預託している者、いずれも闘牛飼育は赤字前提の趣味(道楽)であり、闘牛をこよなく愛していなければ成り立たない世界である。
牛の名前には牛主の姓がそのまま命名されることが多く、複数飼育者の場合は番号(二号、三号)や牛の特徴(カゴ、マルマゲなど角の形状、モン、ベロ赤など外見的特徴)がサブネームとして付けられる。会社名、職業名、屋号等が命名されることもある。人間の相撲に倣って「谷風」のようなしこ名を与える場合もある。「弁慶」「機関銃」「天下一」「方因坊」「大三元」「大王」等々。また、闘牛は転売されることが多いので、識別のため前のオーナーの名前が「元○×」と添記されることもある。
珍名・奇名もあり、宇和島では「原子力」「鉄腕アトム」などがあったが、徳之島はさらに大胆で、「仮面ノリダー」「パンダ」などがある。
全国の闘牛
1.愛媛県
伊予の闘牛の起源については諸説あるが、起源はともかく享和年代(1800年頃)には土俵を設け、本格的な闘牛が行われていた様子が、伊達家の藩政時代の古文書にも記されている。
現在闘牛は、JR駅前の小高い丘の上に建てられたドーム型の屋内闘牛場を会場に、年4回の定期大会と観光闘牛を開催している。
定期闘牛大会 五月場所
宇和島市営闘牛場
電話:0895-25-3511
2023年5月3日(水) 12:00~14:00(開場10時)
入場料
大人 | 中学生以下 | |
---|---|---|
前売り券 | 2,500円 | 無料 |
当日券 | 3,000円 |
※中学生以下(無料)、高齢者(65歳以上2,000円)・障がい者の方は割引きがございます。当日に証明できるものをご持参ください。
2.島根県(隠岐)
絢爛たる神の儀式 隠岐『牛突き(うしづき)』
承久の乱(1221年)で隠岐へ流された後鳥羽上皇を慰めるために、行なわれたことを起源とする隠岐の牛突き。780年の伝統を誇り、日本で最も古い歴史をもつ。島の伝統に則った大会様式と独特の習俗。やがて、島民の楽しみとなった牛突きは、神への奉納という位置づけで伝承され、遥か時を超え、今もこの島に息づいている。
3.岩手県
山形村は古くから日本短角種の産地。江戸時代に塩を牛の背に乗せ、北上山地を超えて盛岡方面まで運ぶ際、先頭に立つ牛を決めるため、牛の突き合わせをしたのが闘牛のはじまりだとされている。現在は、春と夏の年2回、大会が開催されているほか、7月に短角牛の産直先の消費者との交流会でも闘牛を行っている。
4.新潟県小千谷市
この地方では闘牛を「牛の角突き」と呼び、国の重要無形民俗文化財に指定されている。娯楽としての闘牛ではなく、祭りを目的に行われてきたといわれている。
昭和30年頃から昭和50年頃にかけて途絶していたが、地元有志により復活し、現在年8回開催、観光闘牛も予約により随時開催されている。
5.新潟県長岡市
長岡市の「牛の角突き」は、古来の動物競技習俗の形がそのまま残っており、興行化せず村民の生活にとけこみ、一郡一村の山古志の箱庭のような美しい村郷に、伝統的な姿で今に伝えられている。昭和38年頃、農業の機械化や錦鯉ブームにより一時途絶えたが、山古志村観光協会によって復活、昭和53年5月に国の重要無形民俗文化財の指定を受けた。現在、年間9回、村内3カ所の闘牛場で定期大会が開催されている。
6.鹿児島県(徳之島)
徳之島の闘牛は、闘牛大会が開催されている各地の中で「最も熱い!」と言われ、全国的にも一目置かれている。その理由は、なんと言っても牛同士がぶつかりあう迫力と激しい技の攻防、勢子、応援団、観客の視線がその奮闘に注がれる一体感とともに、場内が熱気に覆われる事に尽きる。
7.沖縄県
沖縄県の闘牛は古くから行われてきており、またほぼ毎週10番程度が組まれる大会が行われている事に示されているように牛の層が厚く、レベルも高いと考えられている。牛と牛が闘うタイプの闘牛は世界の中でも日本が最も盛んであり、その中で年間観客動員数において国内の中でトップクラスとなっている沖縄闘牛は、世界に誇れるイベントであると言える。また、うるま市は県内でも特に闘牛が盛んな地域で、平成19年5月に「うるま市石川多目的ドーム」が完成した。天候に左右されることなくイベントが開催でき、約4,000~5,000人の収容が出来る施設である。今では、闘牛大会のほとんどが、ドームで開催されている。
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